藍栽培のルーツ?
出雲で青空の下に咲くジャパンブルー

“色”に注目して、普段の生活を見回してみると、現代社会は実に多くの色に囲まれていることに気づきます。化学染料の発達とともに、いつしか暮らしを取り巻く色は大きく変貌を遂げました。

では、昔の生活における色を想像してみるとどうでしょう。自然の素材のみを使って染色で鮮やかな色を出すことは難しかったはずです。だからこそ色のついた衣は珍重され、地位の高い人は全般的に鮮やかな色の衣服をまといました。
聖徳太子の時代に定められた冠位十二階でも、その位を表すのに色が使われました。その最上位となる“紫”は、今でも高貴な色として知られます。

古代からある染料では、赤を染めるベニバナや黄色を染めるクチナシが有名ですが、2020年の東京オリンピックのロゴの色にも使われた“藍”は最も歴史が古いといわれ、その色素であるインディゴを含む植物は世界中にみられます。
今から4〜5,000年前のエジプトのミイラの巻布にも藍染が使われたという調査結果もあるほどです。

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抗菌・防虫効果もある魔法の染料“藍”

奈良時代、染料の素となる蓼藍(たであい)の栽培方法とともに藍染技術が日本にもたらされ、『出雲国風土記』にも、藍が出雲地方の産物として記されています。安土桃山時代にはその技術が伝播した阿波(徳島)を中心に藍の栽培が最盛を迎え、瞬く間に私たちの暮らしに欠かせない存在となりました。

江戸時代になると生活雑貨など、さまざまな布製品に藍染が使われるようになります。鮮やかな色合いと、抗菌作用により虫がつきにくいことから庶民の間でも文化として馴染んでいきました。
古くから出雲地方では、この藍染製品がお祝いの品として使われてきました。結婚する際には、家紋が入った風呂敷や布団、油箪のほか、提灯袋や番傘を入れる袋などが嫁入り仕度として贈られました。一生に一度、嫁ぐ娘を思い職人に作らせた風呂敷に使われたのが、出雲に残る筒描藍染(つつがきあいぞめ)の手法です。

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受け継がれた「筒描藍染」

高瀬川沿いにある「長田染工場」は、出雲地方で筒描藍染を受け継ぐ唯一の工場です。島根県指定無形文化財の保持者である四代目の長田茂伸さんと五代目の長田匡央さんの親子二人で、全国でも類を見ない技術を守り続けています。

明治28年、長田染工場が創業した際には、出雲地方には紺屋(こんや)と呼ばれる60件あまりの染め工場があったそうです。
時を重ね、ライフスタイルと産業構造の変化により、繊維産品の売り上げが落ち込むと、次第に長田染工場のような紺屋は姿を消していきました。

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筒描藍染には気の遠くなるような手間と時間がかかります。
まず、染料を作るために2〜3週間ほどをかけて藍を発酵させる必要があります。季節や気温・湿度によって藍の発酵状態は異なるため、延々と藍甕に入った染料をかき回し、時には自分の舌で発酵の状態を確認しながら理想の状態へと近づけていきます。
藍甕をかき混ぜていると、その渦の真ん中にこんもりとした泡の塊が現れます。この泡は、“藍の華”と呼ばれ、染めに適した頃合いをみるひとつの目安となっているそうです。

絵柄を描く工程では、柿渋を塗った和紙を円錐形に丸めた筒袋を用います。
筒袋に入った糊を手で絞り出しながら、下絵を目安にして生地に置いていきます。そして、絵柄を描いた糊が乾く前に糠を振って固め、余分な糠を振り払います。その作業を繰り返して絵柄を描き終えた後、裏面から刷毛で水を引き、糊を生地に染み込ませます。
こうすることで、染めた際に糊のついた部分が白抜きで残り、藍色の図案が浮かび上がるというわけです。
ただし、濃く鮮やかな藍色を浮かび上がらせるには20回ほど染める必要があり、その間には糊を補強しなければならないため、4〜5回染めるたびに天日で干す作業を行うのですから、いかに手間がいる作業かお分かりいただけると思います。

これほど手間がかかる製法ですから、同じ絵柄を何枚も大量に生産するには向きません。お祝いとして家紋を入れることが多くあるので、一点ずつ心を込めて染め上げるようなものに、筒描藍染がふさわしいといえるでしょう。

「伝統を受け継ぐと考えるとプレッシャーにもなりますし、多忙のなかでできることも限られますから、あくまで目の前の仕事にひとつずつ取り組むことしかできないです」と語る五代目の匡央さん。
数千年もの間、受け継がれてきた藍染、そして今は希少となった筒描藍染という技術を手に、気負うことなく仕事に向き合う姿が印象的でした。伝統を受け継ぐことに重圧はあるかもしれませんが、ぜひわが子や孫の幸せを真摯に祈る家族の想いとともに、その技をいつまでも受け継いでいってもらいたいものです。

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四巾風呂敷 鶴亀松竹梅宝尽くし

筒描藍染の技が結集した祝風呂敷。意匠も一子相伝のもので、中央の熨斗丸は結束を、松竹梅は「不老長寿」「子の成長」「安産」を表す家族の幸せを願った絵柄。

長田染工場Nagatasenkōjō

Address
島根県出雲市大津町1109
Tel
http://www.izumo-net.ne.jp/~nagatasen/
Web
http://www.izumo-net.ne.jp/~nagatasen/

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