自然の叡智と技を集めて、
“捨てない”をもっと美しく

「八雲立つ 出雲八重垣 妻籠みに 八重垣作る その八重垣を」とは、素戔嗚尊(すさのおのみこと)が出雲を詠んだとされる古歌です。
その歌にちなみ「八雲塗」と命名されたのが出雲の名産のひとつである漆器です。
古くから出雲と漆との縁は深く、さまざまな発掘調査を通じてその証拠が明らかになっています。

2009年の調査で発見され話題となったのが、小さな紙片です。
8世紀末から9世紀初頭にかけてのものと思われる紙片が、なぜ風化せずに残っていたのでしょうか?
秘密はその紙片の使われ方にありました。
紙片はもともと廃棄される文書でしたが、「漆」を入れる容器の蓋として再利用されたため漆が染み込み、その防腐・防虫効果のおかげで、腐らずに残ったというわけです。
紙片は公文書の一部とみられ、出雲国府での行政を知る上でも貴重な資料と言えます。

大名茶人として知られる松江藩主 松平治郷(まつだいら はるさと)は、工芸と茶の湯の振興を通じて、松江の漆器文化の礎をつくった人物のひとりです。
明治期に入ると、地元の名工のひとり坂田平一によってその技術は大きく発展、下塗りをした木地に、色漆で文様を描いて絵付け、その上に透漆(すきうるし)を塗り重ねる技法を確立し、前述の「八雲塗」の素地をつくったと言われています。

漆は、器を守り、艶を与えるだけのものではありません。縄文時代の遺跡からは漆で修復された形跡のある土器などが発見されており、古くから塗料以外にも接着剤として利用されていたことが分かっています。
時を超え、その技術を受け継ぐように「金継ぎ」という手法が今注目を集めています。

test 器を愛しそうに扱う所作が印象的なguu.さん

出雲出身で、島根・東京の二拠点で活躍する金継ぎ師guu.さんも、金継ぎに魅せられた一人。
大学で漆芸を専攻、広島の宮島ろくろなどで器の木地づくりから学び、その過程で金継ぎに出会います。その技法は、麻布を張る作業や金粉を振る工程など漆芸と共通する部分も多く、すぐにのめり込んだそうです。

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元々金継ぎは、茶器や美術品を直す技法として確立され、金継ぎされた器には自然美とも言える魅力が宿り、その美しさを川の流れや稲妻に例える人もいるほどです。博物館に収蔵される古い茶器などを見ると、その金色の筋の流麗さに目がとまります。

guu.さんはよく、地元の年配の方から「金継ぎで付加価値がつくね」と言われるそうですが、金継ぎはあくまでも“直すこと”が目的であり、付加価値がつくとは考えていないそうです。
器は欠けたり割れたりすると、すぐに捨てられてしまうことが多いものですが、金継ぎを施すことで、これからも使う人の暮らしの一部であり続けることができる。そして、時とともに漆はその透明度を増していきます。
漆が透明になるにつれ、ベンガラ漆などの色漆に含まれる顔料や、八雲塗のような透漆を塗り重ねたものでは奥にある漆絵が鮮明に見えるようになり、時の流れを漆器の顔つきの変化で感じとることもできるでしょう。

「植物は枯れても美しいですよね」と語るguu.さんは、欠けた器を生き物のように捉え、命を吹き込むように金継ぎに取り組まれていると感じられました。

”自然のもの”で継いでいくサイクル

guu.さんが感じる金継ぎの魅力は、自然の土を焼き上げてつくられた器を、同じく自然のものである漆を使って直すという、その精神性の部分にあります。
漆は水を好み、乾燥ですぐに色が変わってしまうほどに繊細。それでいて、熱にも寒さにも強い性質を持ちます。
その場で見せていただいた金継ぎの作業中に、乳白色の漆が徐々に茶色に変わっていく様子を目にすると、漆が“生きもの”であることを実感します。

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現代につたう工芸の精神

「直してでも使いたい」をコンセプトに活動するguu.さんは、直せるものはなんでも自分で直すのがスタイル。磨り減ったズボンも自ら縫って直すそうです。
「自分で直すことって健康的」と語り、島根や東京、オンラインでも開催する金継ぎワークショップに、若い生徒さんが増えていることを嬉しそうな表情でお話しされていました。

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取材を通して広島、東京と外からご出身の出雲を見てきたguu.さんに出雲の文化についてお伺いすると、「地元にいる時には気づかなかった」というほど、やはり民藝がとても身近な土地柄があがります。
そして、“暮らしの中の金継ぎ”と民藝の”用の美”の考え方に共通点を見出し、より出雲の文化、出雲の民藝とのつながりを意識するようになったそうです。

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不昧公の時代から育まれてきた工芸の精神や工芸品を当たり前のように生活に取り入れる習慣が出雲の民藝を後押しし、今もなお、guu.さんのような若いつくり手の方を生み出す土壌となっているのでしょう。

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「直してでも、使いたい」を体現するguu.さん。愛用の食器が欠けてしまったら、一度ご相談してみてはいかがでしょうか。また、島根・東京やオンラインでも金継ぎワークショップを開催されています。

金継ぎ師 guu.Kintsugishi guu.

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