迷える若者たちの支えともなった
使われてこそ輝く“用の美”の心

出雲の暮らしを体験してみると、コーヒーや紅茶感覚で地域の人がよくお茶を飲むことに気づきます。
漁港や田畑での作業中、当たり前のように休憩にはお茶が用意され、湯飲みにはつねにお茶が注ぎ足されます。

これほどお茶の文化が地域に浸透している背景を語る上で、大名茶人として知られる松江藩主 松平治郷(まつだいら はるさと)の名は外せません。
逼迫していた藩政の立て直しのみならず、茶の湯の振興にも大きな役割を果たしたその人は、今でも地域では不昧公(ふまいこう)の名で親しまれています。

布志名焼の流れを組む「湯町窯」
布志名や楽山で初代が学び開窯した「袖師窯」

茶の湯文化の隆興と共に発展を遂げたのが「楽山焼」や「布志名焼」に代表される出雲焼です。
楽山焼の創窯は、不昧公が藩主となる約100年以上前、松江藩初代藩主が転封した時期と考えられ、二代藩主 綱隆が1677 年(延宝 5 年)に萩から陶芸家の倉崎権兵衛を招いたことにより本格化します。
楽山焼は数代続いたのち製造が中断されましたが、1801年(享和元年)不昧公の働きかけにより名工・長岡住右衛門によって再興されました(当時は「御立山焼」や「御山焼」と呼ばれ、「楽山焼」という名が定着したのは明治期のこと)。

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民藝運動を追い風に、焼き物文化が成熟

出雲における茶の湯・焼き物文化は脈々と受け継がれ、大正期の柳宗悦・河井寛次郎らによる“民藝運動”により新たな広がりを見せます。
江戸中期から続く伝統的な布志名焼の流れを組む「湯町窯」で焼かれる陶器は、地元で採れる来待石を釉薬に使った温かみのある黄土色が特徴的。食卓に並ぶだけで、囲む人の気持ちも温かくしてくれます。

test イギリス人陶芸家 バーナード・リーチ直伝の美技

湯町窯には、民藝運動との関わりが深いイギリス人陶芸家のバーナード・リーチが足繁く通い、古くからヨーロッパで人気の高かった装飾文様を施す「スリップウエア」や手軽に美味しい目玉焼きを楽しめる「エッグベーカー」作りなどを指導してくれたそうです。
現在の窯を守るのは、三代目の福間琇士さんと四代目の庸介さん。名工との呼び声高い琇士さん自ら「リーチさんより早いよ」と笑いながら披露してくれたコーヒーカップヘのハンドルづけはバーナード・リーチの直伝。その美技に思わずため息が漏れます。

test 「出西窯」の工房にある登り窯。写真のような大きな窯が階段状に六室も連なる

新たな芽吹きの連続が、出雲文化をつくった

日本民藝館展などで話題を呼び、県内でも屈指の人気を誇る出西窯の創業は終戦直後の昭和22年のこと。
志を共にする五人の若者によって創業されましたが、意外なことに当初は陶芸に固執していたわけではなく、地元を愛する若者たちが「何か面白いことを始めよう」と、いわば“町おこし”のような船出で、瓦工場のアイデアなどもあったそうです。

最初のうちは格式の高い美術品の作陶を目指していたそうですが、「あなたたちには志も技術もない」と酷評され、「柳宗悦の本を読め」「浜田庄司の作品を見ろ」と檄をもらったことで目が覚め、釉薬の大家であった河井寛次郎の指導を仰ぐに至ります。
河井寛次郎との出会いにより、五人は“道具は使われてこそ美しい=用の美”を追求しようと決意。昭和30年代頃から栄誉ある受賞を重ねるようになり、全国の民藝品店で取り扱われるまでになりました。

test 松江の繁華街からそう遠くはないが、「袖師窯」の工房にはゆったりとした時間の流れが感じられた

その他にも、松江周辺には民藝運動の気運が色濃く残り、宍道湖沿いに窯を構える袖師窯など、河井寛次郎やバーナード・リーチから直接指導受けた窯元が、多くのファンを惹きつけ続けています。
民藝運動を追い風に目覚ましい発展を遂げた出雲の焼き物は、現代につたう代表的な出雲文化のひとつ。いわば出雲の焼き物文化の歴史は、近代以降の出雲文化史そのものと言えるかもしれません。

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エッグベーカー

愛らしいフォルムのエッグベーカーで、いつもの目玉焼きが芳醇な味わいに。取材に訪れた際、ご主人がもてなしてくださった目玉焼きの味は忘れられません。

湯町窯Yumachigama

Address
島根県松江市玉湯町湯町965-1
Tel
0852-62-0726
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ル・コションドール出西

工房に併設されたベーカリーレストラン。芳醇な香りのパンを出西窯の美しい器とともにお楽しみください。

出西窯Shussaigama

Address
島根県出雲市斐川町出西3368
Tel
0853-72-0239
Web
https://www.shussai.jp/
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二彩の土瓶と湯呑

二色の淡く味わいある色味からは、工房から醸し出される手仕事の丁寧さや日々に向き合う姿勢などが表れているようです。

袖師窯Sodeshigama

Address
島根県松江市袖師町3-21
Tel
0852-21-3974

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