道端の草が教えてくれる
“薬草の国 出雲”、暮らしのヒント

出雲の神話にはさまざまな動物が登場します。なかでも因幡の白兎(いなばのしろうさぎ)は、もっとも有名な話しのひとつではないでしょうか。

昔々、隠岐の島に住んでいた兎が、因幡の国まで行きたいとワニザメたちを利用して海を渡ろうとします。しかし、その魂胆に怒ったワニザメによって体の毛をむしり取られてしまいます。さらには、通りかかった大国主命(おおくにぬしのみこと)の兄神にそそのかされ、海水で体を洗ってしまい症状が悪化してしまうのです。
兎がもがき苦しんでいると、そこへ大国主命が通りかかります。心やさしき神で知られる大国主命から「傷口を真水で洗い、“蒲の穂(がまのほ)”の上で寝転ぶと良い」とアドバイスを受けた兎はなんとか命をとりとめます。

このお話に出てくる「蒲の穂」はガマ科の多年草。その花粉は 「蒲黄(ほおう)」と呼ばれ、止血・利尿・鎮痛作用があると言われる生薬として、今も知られています。

約1,300年前の文献にも、出雲に自生する野草が登場

ほぼ完本として残る唯一の風土記である『出雲国風土記』には、地域に自生していた多くの草木・薬草の記載があります。古代出雲は“薬草の国”ともいえるほど薬草が豊富にあり、その多くが今でも野山に自生しているというから驚きです。

たとえばそのひとつがヤマモモ。漢名は「楊梅」と書き、中国では皮を乾燥して漢方として使われます。
出雲での収穫は梅雨時期なので、雲間を狙ってのしか収穫できず、鮮度も保ちづらいため、なかなか市場にも流通しません。その特徴を聞くと、ヤマモモが“幻の果実”と呼ばれるのも頷けます。
現在では、その有用性が少しずつ解明され、ビタミン類やフラボノイドが豊富で、抗酸化作用などが期待できるとして、出雲市多伎町を中心に作られるヤマモモのジャムやお茶などが注目されています。

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神話に記載された出雲の野草・薬草をとりまくストーリーに魅了され、移住者の須田ひとみさんらが中心となって出雲大社近くの古民家内に「古代出雲薬草展示室」をオープンしたのは2019年3月のこと。
展示室のオープン以前にも専門家らを招き、学びの側面から知的好奇心をくすぐるイベントを数多く主催してきました。

『出雲国風土記』に記載のある植物を題材に活動するうちに地域の生産者さんとのつながりも深くなり、今では企業の新商品開発の担当者などが生産者さんとの接点を求めて同展示室を訪れるといいます。
ひとつひとつの草木が持つ物語に目を向け、今の何気ない暮らしの中にある豊かさを感じてもらうことが、須田さんたちの願いです。

『出雲国風土記』につたう“神の宿る草”

『出雲国風土記』に記述がある植物で、改めて価値が見直されている植物の代表格が「マコモ(真菰)」です。
英語では「ワイルドライス」と言われ、米より遥かに古い歴史を持つイネ科の穀物。出雲有数の景勝地である宍道湖周辺にも自生しており、稲のように穂を揺らす姿がみられます。
その野生種のほか、茎部分に柔らかいたけのこのような食感の「マコモダケ(真菰筍)」ができる栽培種があります。

別名“神の宿る草”とも言われるマコモは、八百万の神が行き交う出雲の神事とも所縁が深く、毎年6月に出雲大社で行われる涼殿祭は「まこも神事」とも呼ばれ、出雲大社宮司(国造)が地面に敷いたマコモの上を歩く場面もみられます。
さらに、なんと出雲大社の本殿前のしめ縄はマコモで作られたものだそうです。その事実を聞いただけでも、いかに古くからマコモが珍重されてきたかが分かります。

マコモダケ(写真提供:古代出雲薬草展示室)
しめ縄で使われるマコモの葉

神事に使われてきた古式ゆかしい植物で、近年は栄養価の高い食べ物として美容や健康食品分野から注目を集めるマコモ。
そのポテンシャルに可能性を感じた人たちを中心に、マコモをテーマに取り上げた「全国マコモサミット」が2020年に出雲で開催されます。須田さんらも古代出雲薬草探究会として実行委員会を組織してサポートしていくそうです。

科学が発展した現代だからこそ、原点に立ち返って自然がもつ力を上手に利用しながら生きる暮らし。道端の名もなき野草が教えてくれる日常のヒントに、いま改めて目を向けてみたいものです。

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出雲大社から東へ徒歩5分。真名井の清水の2軒先、ベジカフェまないな内に薬草展示室が併設されています。ゆったりとくつろげる店内で古代の薬草に思いを馳せてみてください。

古代出雲薬草展示室Kodai Izumo Yakusō Tenjishitsu

Address
島根県出雲市大社町杵築東7(ベジカフェまないな内)
Tel
0853-53-5560
Web
https://peraichi.com/landing_pages/view/izumoyakuso

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